座りすぎをやめて健康寿命をのばそう!-2-

第2章 生活習慣改造の取り組み

1) 海外の取り組み

座りすぎの危険については、世界中の研究機関からも発信されているわけですが、2012年医学専門誌に掲載された「身体活動不足はパンデミックだ」という論文に世界中が驚きました。

2015年には各国の研究者による国際会議が開かれたわけですが、WHOも座りすぎはタバコよりも危険だと指摘し、座って動かない生活ががんや糖尿病や心血管疾患などの要因となり、年間200万人の死因となっているとしています。

また、ブラジルのサンパウロ大学からは、世界中で1年間に43万人以上の人が座りすぎが原因で死亡しているという報告がありました。

イギリスは、すでに2011年には英国身体活動指針の中で、座っている時間を減らすことを奨励し、最近ではデスクワーク中心の仕事に従事する人に対して座りすぎ対策が具体的に示されました。

また、オーストラリアでは、官民が一体となって脱・座りすぎを実践しようとして、2014年にはガイドラインが作成されて職場での座りすぎを改善するよう勧告しています。さらにアメリカのシリコンバレーではスタンディングデスクを活用する人たちが増えて、意識して座る時間を中断するようになっているようです。

こういったさまざまな研究機関や国の政策が浸透して、座りすぎのリスクを自覚して、座りすぎを改める方向に向いているようですが、日本もガイドラインを作成するなどの対策に取り掛かる必要があるのではないかと思います。

2) 座っている時間を知るには

海外の取り組みと比べて、日本の座りすぎに対する意識はまだまだ低いのかもしれません。1日何時間座っているかを計測することなどないでしょうし、あまり意識したこともないでしょう。そこで、1日の生活・行動を振り返っていただいて、まずは座りすぎに気付いていただきたいと思います。たとえば、仕事・移動・余暇(座っている時間)がそれぞれ何時間くらいになるかを考えてください。

例として、朝の起床から始まり就寝までの行動を振り返ったある男性の場合、仕事はパソコン作業などが多く約8時間、通勤など移動時間が2時間、食事や仕事中の休憩時間が2時間強、帰宅してからのテレビ視聴とスマホ操作などの時間が4時間程度あるようで、合計すると1日のうち17時間近く座って過ごしていることに気付かされたようです。おそらく、同じような行動パターンを取っている方は大変多いと思います。

私たちの研究プロジェクトでも2014年から数千人の追跡調査を行い、座りすぎによる健康への影響を調べています。その方法は、3通りの方法があり、質問紙を渡して記録し自己報告する・加速時計などの機器を使う・ビデオを使って行動パターンを観察する、といった方法になります。その中でも機器を使うことは客観的な観察ができ、加速度計を装着して計測すると思っていた以上に座っている時間が長いことに気付くようです。

ある工場を経営する50代の男性の場合は工場と事務所を行き来することが多く、健康のために歩いて通勤していることから、あまり座って過ごしているようには思えないわけですが、加速度計を装着して計測すると10時間近く座っていることがわかりました。たとえ歩いて通勤していたとしても、仕事中の外回りは車で移動し、帰宅してからはほとんど座って過ごしていることも影響しているのでしょう。子育て中のお母さんの場合も、忙しく動き回っているような気がしているかもしれませんが、思いのほか座っている時間は多い結果になることが多いようです。

3) 座りすぎの基準は

座りすぎが悪影響を及ぼすことは、海外からの報告や私たちの研究からもお判りいただけたと思いますが、肝心なのはどの程度座り続けると座りすぎになるのかということでしょう。この座りすぎの基準は、研究段階ということもあって明確にされてはいないのですが、オーストラリアの研究では、1日8時間以上を目安にして、座りすぎは糖尿病や心臓病のリスクを高めるとしているようです。

そして、日本人の40~64歳の人たちを対象に行った調査では、平均して8~9時間座って過ごしているという結果が出ています。この8~9時間という結果は世界の国々と比べてかなり多く、トップクラスになるようです。たとえば、世界20ヶ国を対象に行った総座位時間調査では、中央値が1日5時間、最小の座位時間はポルトガルの2.5時間でした。

この日本の総座位時間の多さの理由は、皆さん真面目に働いているということかもしれません。日本では週休2日制が普及して、しっかり休んでいるように見えますが、実際は平均して1日当たりの労働時間は増えていると言われています。つまり、働く日数は減っても、その分が残業という形で補われているのでしょう。

そして、残業することで座っている時間が増えてしまいます。2011年の調査では、1日10時間以上働く男性雇用者が43.7%もいるという結果が出ています。その中でも、デスクワークをされている方は勤務時間の70%を座って過ごしていると言われて、仕事中だけで座っている時間は7時間に達し、さらに残業や通勤、家で過ごす時の座っている時間を合わせれば座りすぎと言わざるを得ません。

4) 意識の転換

残業が増えて座る時間が増え、その結果血流が悪化し疲れを感じます。疲れてくれば集中力も低下して、仕事ははかどらずに時間ばかりかかってしまい、座っている時間はさらに長くなります、そして、疲れは増してくるという悪循環をたどっていないでしょうか。

仕事中も歩いて資料を取りに行ったり、コピー機まで歩いたり、話をするために同僚の席まで移動することが増えれば足の筋肉を使うことになり、血流を停滞させることもなくなるでしょう。ところが、パソコンで資料を閲覧して、インターネットで調べ物をして、スマホで会話が済んでしまうことで、立ち上がるチャンスが激減しています。

自宅に戻ってからも、テーブルの上にテレビやエアコンのリモコンが並んで、座ったまま操作できてしまいます。

もちろん、仕事中に座って過ごす時間は職業によって違いがあり、死亡リスクの差にもなっています。イギリスでは、13年間にわたり1万1,168人に対して追跡調査を行ったところ、立ち仕事・歩き仕事をしている女性に比べて、座って仕事をする女性は死亡リスクがかなり高くなるという結果が出ました。その他にも、さまざまな研究結果から、デスクワークは座りすぎになりやすく、健康を害するようなリスクを抱えてしまうことが明らかになっています。

一方、100歳を超える長寿の方の中には、現役時代は教師をしていたという方が多いと言われています。特に小学校の教師は立って授業を行い、校舎の中では階段を使うことが多く、子供たちと校庭を駆け回り、しかも給食を食べていることから、座りすぎの生活にならずに食生活も栄養のバランスがとりやすいのでしょう。こういったことから、座りすぎないことを意識することで、かなりのリスクを回避することができるように思います。座る時間が長くなると、血流の悪化だけでなく生産性の低下や効率の悪化となり、メンタル面への影響も心配されます。

当研究室でも立ち机やバランスチェアなどを取り入れているわけですが、ある企業でもワークスタイルの見直しを始めています。その一つが楽天です。楽天では昇降式のデスクを導入し、立って働ける環境を整えました。こういった昇降式のデスクを設置して健康増進に取り組む企業は増えています。また、アイリスオーヤマの一部の拠点では、座った状態でのパソコン使用を禁止し、使用時間は1回に付き45分としているそうです。ただ、このような取り組みを企業が行ったとしても、本人の自覚がなくては意味がありません。

仕事中は座っている時間が長いけれども週末は運動しているので大丈夫といった方、あるいは仕事をリタイヤしてからは居心地のいいソファに座って過ごしているという方も多いのではないでしょうか。また、テレビの前に座っていると時間が経つのも忘れてしまい、動かないまま過ごす時間が長くなってしまいます。脳は使わないと衰えてしまうという危機は感じている方も多いようですが、身体も動かないと衰えて老化が進んでしまいますので、座りすぎをやめる工夫をしていただきたいと思います。

参考文献:「長生きしたければ座りすぎをやめなさい」早稲田大学教授 岡 浩一朗 著

第3章 健康寿命を延ばすための工夫 >

参考文献著者紹介


早稲田大学教授 岡浩一朗氏
早稲田大学スポーツ科学研究科
岡 浩一朗 研究室

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