寿命を縮める座りすぎの生活-3-

第3章 座りすぎが病気の引き金に

1) 低強度の身体活動と座りすぎ解消

2000年、オーストラリアのネヴィル・オーエン博士が「セデンタリー・ビヘイビア」という用語を使った論文の中で座りすぎについて問題提起したことで、長時間にわたる座位行動が病気リスクを高めるという研究が行われるようになりました。それ以前の健康に関する提言は、中高強度の身体活動を取り入れるといった身体活動面に着目したものだったのですが、座位行動の研究が進む中で、座りすぎないことの重要性が注目されるようになりました。

ジムで身体を動かしても、それ以外の時間の多くを座って過ごしていたのではジムでの運動も無駄になってしまうため、運動することに関心を持つだけでなく、運動する時間以外の過ごし方を意識しなければならないということです。平日の寝不足を解消するために寝だめをしても睡眠不足は解消できないのと同じように、座りすぎを解消するために休日に熱心に運動したとしても効果は薄いようです。

アクティブ・カウチポテトという言葉があります。平日にずっとデスクワークをして、週末にジムで運動をする人を指しているのですが、アメリカでは長椅子に寝そべってテレビを見ながらポテトチップスを食べている人をカウチポテトと呼ぶそうです。

そのカウチポテトと呼ばれる人たちが、週末にジムで運動することからアクティブ・カウチポテトという言葉が生まれたわけですが、週末に運動していることで運動不足が解消できていると思い込んでしまうのでしょう。ところが週末の運動だけでは平日の座りすぎが十分解消できることはなく、ジムで運動してもカウチポテトと同様に座りすぎによるリスクを抱えていることになります。

そして、週末の3メッツ以上の中高強度の身体活動以外にも、日常生活の中の低強度の身体活動を増やすことが座りすぎの解消には必要です。

2) 座りすぎないことの効果

さまざまな研究機関で、座りすぎないことがどんな効果を生むのかといった研究が行われています。

アメリカのマーク・ハミルトン博士は不活動の生理学という面からの研究を、オーストラリアのデイヴィット・ダンスタン博士らのグループでは、座っている間にどんな運動をどのくらいの間隔で取り入れるのが適しているかといった研究が行われてきました。

たとえば、座りっぱなしと間にブレイクを入れた時の、食後の血糖値やインスリン抵抗性を調べて糖尿病に関わる数値を比較する実験が行われています。

具体的には、対象者を1日7時間座り続けるグループをA、2時間座り続けた後の5時間は20分ごとに2分ずつ立ってゆっくり歩くというブレイクを実践するグループをB、その2分ずつの活動を通常歩行以上の速度で歩く中高強度活動を行うグループをC、という3つの形に分けて実験を行うというものです。

その結果、座りっぱなしのAに比べてBとCは血糖値やインスリン抵抗性の数値が2割程度改善し、BとCにはほとんど差がありませんでした。このことから、血糖値を下げるには歩くのが一番とされてきましたが、座りすぎないことで同様の改善がみられ、仕事中もちょっとブレイクを設けて、ちょこちょこ動くだけでも効果があるということがわかります。

3) なぜ座りすぎが健康リスクを高めるのか

これまで、健康に関する調査を行う際に、職業については事務系か立ち仕事中心か、あるいは肉体労働かといった仕事の形態について問うだけで、座っている時間について問うことはなかったと思います。

ただ、最近は座りすぎと健康リスクが問題視されるようになり急速に研究が進んでいます。
たとえばイギリスでは約11,000人を13年ほど追跡調査し、がんや心血管疾患などで亡くなった人についての調査が行われ、立ったり歩いたりする身体活動が伴う仕事をする女性は、座り仕事の多い人に比べて総死亡リスクが32%ほど低く、がんによる死亡は40%も低くなっているという結果が出ました。

もちろん、座りっぱなしが肥満や糖尿病などのリスクを高めるのであれば、そのメカニズムについての研究も行われているはずですが、いまだに十分解明されたわけではありません。ただ、現段階でも想定される説もありますので、いくつかご紹介したいと思います。

人は、立っている時の姿勢を維持するためにふくらはぎの筋肉を使い、さらに歩行運動は太ももの筋肉も使うことになります。こういった筋肉の収縮は血液中のグリコースの細胞内への取り込みを促し、リポタンパクリパーゼと呼ばれる酵素を活性化させることで血液中の中性脂肪の取り込みを促進させます。

一方、座っている時は下肢の筋肉の収縮はほとんど生じないために、血液中のグリコース濃度や中性脂肪濃度が上がり、長い時間座っていると下肢の血管の赤血球が固まりやすくなり、血液の粘り気と炎症マーカーが高まると言われています。さらに、座っている姿勢を続けていると筋交感神経活動が高まり、血圧が上昇し血管機能が低下するなど影響が出ることがあり、健康リスクを抑えるには身体活動が重要だということになります。

筋電図データからわかることもあります。座っている時はほとんど筋活動が見られず、椅子から立ち上がると身体を支えるために筋活動が起こります。
ただ、立っているだけの筋活動だけでは食後血糖値の数値の改善はあまり期待できず、少し動くブレイクが必要です。このことから、立ってさらにちょっと動くことが重要だと言えるのではないでしょうか。

4) 座りすぎになる生活スタイル

職場でパソコンと向き合い、昼食以外は席を立たない方も多いのでしょう。そして、職場での座りすぎによる疲労感で、自宅でもテレビの前に座りダラダラ過ごしてしまうのではないでしょうか。職場と自宅との間の移動も車や電車の中で座ることが多く、仕事で疲れる原因は身体を動かす疲労ではなく、座りっぱなしによる疲労なのかもしれません。

そこで、職場で座り続けないように意識することで疲れを感じにくくなり、次の行動が起こしやすくなると思います。

アメリカで20年にわたり追跡調査を行った移動中に関するデータがありますが、1週間に10時間以上車に乗っている人は4時間未満しか乗らない人に比べて、心臓病や脳卒中などのリスクが1.5倍高くなるという結果が出ました。車での移動を減らす取り組みは地球温暖化対策として行われていますが、座りすぎ防止にもつながるはずです。とは言っても車なしの生活は不便で、移動は座ったままという方が多いのでしょうが、移動にしても仕事にしても座りすぎない工夫が必要です。

もちろん職場や移動以外にも、自宅でテレビの前に座り続ける時間が健康リスクを高めることになります。1日4時間以上テレビを見る人は2時間未満の人に比べて総死亡率が1.46倍高く、テレビ視聴のために1時間座り続けるごとに22分ずつ平均寿命が短くなるという報告もあります。

また、テレビを見ながらスナック菓子を食べソフトドリンクを飲めば病気になるリスクはさらに高くなるでしょう。そして、健康寿命の指標になる歩行速度が遅くなり、要介護リスクが高くなってしまいます。テレビの見過ぎでウエストが太くなるというデータもありますが、肥満や腹囲の増加は糖尿病や心疾患、そしてがんにもつながる可能性があります。

実は、座りすぎとがんの関連性についても研究が行われ、座位時間とがんによる死亡との関係を見ると、総座位時間が1日4時間未満の人に比べて、8~11時間の人はがんで死亡するリスクが1.2倍となっています。また、テレビ視聴時間とがん罹患リスクでも、視聴時間が長くなると結腸がんのリスクが高くなるというデータがあり、座りすぎ及びテレビ視聴時間と肺がん罹患リスクや子宮内膜がんや結腸がんなどとの関連性も示しています。

たとえ1週間に300分以上運動しても11時間以上座っている場合の死亡リスクは、座っている時間が4時間未満の人の1.57倍になるというデータもありますので、運動するだけでなく座りすぎそのものを減らすことを意識しなければなりません。

 

 

 

参考文献:『「座りすぎ」が寿命を縮める』早稲田大学教授 岡 浩一朗 著

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参考文献著者紹介


早稲田大学教授 岡浩一朗氏
早稲田大学スポーツ科学研究科
岡 浩一朗 研究室

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