寿命を縮める座りすぎの生活-2-

第2章 座りすぎがいけない理由

1) 「運転手と車掌」の研究

なかなか自分が座りすぎていることは自覚できないのかもしれませんが、実は座りすぎが健康に悪影響を及ぼしていると言われ始めたのは最近のことです。

1950年代、医学雑誌「ランセット」誌に掲載された論文の1つに、ロンドンの2階建てバスの運転手と車掌の仕事中の活動状況と病気のリスクについての研究報告があります。その研究報告によると、座りっぱなしでバスを運転する運転手と、切符を切ったりするためにバスの1階と2階を行き来する車掌とでは心臓発作や心臓病による死亡リスクに差があり、特に55歳を過ぎると運転手の死亡リスクは高くなるとされています。

そして、その理由として運転手と車掌の消費エネルギーの差が関わっているのではないかという研究が行われたわけですが、当時は運転手の座りすぎよりも車掌の身体活動の量に着目されることになりました。この時、運転手の座りすぎにもっと注目していれば、座位行動についての研究はもっと早くから始まっていたかもしれません。とは言っても、座りすぎによる健康へのリスクを始めて指摘した報告であり、ここから座りすぎについての研究が始まったわけです。

この頃は、余暇の運動が重要だと言われ始めた時代でもあります。アメリカでは1980年代になって定期的な運動が望ましいと言われ始め、フィットネスという言葉がはやり始めたのもこの頃です。さらに、1990年代半ばにはエクササイズと呼ばれる運動が浸透して、普段の身体運動の重要性が指摘されて研究が行われるようになりました。つまり、日常生活の中で身体を動かし、動かすだけでなく座りすぎないように心がけることで健康リスクを抑えようということです。

その後、次第に座りすぎや座位行動についての研究が盛んに行われるようになりました。2000年には「エクササイズ・アンド・スポーツ・サイエンス・レビュー」誌に、座位行動に着目したと論文が掲載されました。この論文はオーストラリアのネヴィル・オーエン博士によるものです。さらに、2016年5月の時点で、2000年以降の座位行動に関連した論文が1091件報告されていることからも、今後はますます座位行動に関する研究が盛んになっていくものと思われます。

その論文も、最近では子供や青少年を対象にしたものから壮年・中高年や高齢者、さらに成人全般を対象とした研究となり、さらに脳卒中や糖尿病、線維筋痛症やがんサバイバーといった患者を対象にした研究も行われるようになりました。こういった研究からも、座りすすぎと健康リスクとの関連性が注目されていることがわかると思います。

2) テレビ視聴と座りすぎ

座りすぎの研究の中には、テレビと健康リスクの関連性についての研究も多数あります。もちろん、テレビの視聴そのものが健康を脅かすといったものではなく、テレビを視聴することで座り続ける時間が増え、そのことによって病気になることもあり死亡リスクも高くなるといった研究です。

2000年代に入ると、アメリカの医学会誌「JAMA」などの専門誌には、テレビの視聴時間と肥満・糖尿病などの関係についての研究成果が発表されるようになりました。
2003年に発表されたのは、「看護師健康調査」に参加した女性の、テレビ視聴時間と肥満・糖尿病の発症の関係についての報告です。

この研究は6年間の追跡調査によって報告されたもので、テレビの視聴時間が1日に2時間増えると、肥満のリスクが23%アップし、糖尿病の発症リスクが14%高くなるということがわかりました。この研究発表後は「テレビ視聴にともなう座りすぎの健康リスク」に注目した研究が増えていったようです。

アメリカの「全国健康影響調査」の場合、調査協力者に加速度計を装着してもらい、日常の身体活動や座位行動を客観的に評価するといった取り組みを2003年から行っています。そして2003年~04年のデータを分析すると、アメリカ人の成人男女の起きている時間のうち、座位行動は50%以上を占めていることがわかり、年齢が高くなるほどその割合も高くなり、70歳以上ともなると座位行動は60%を超えるようです。

加速度計は、物体の振動や物体の運動の加速度を測定する装置であり、具体的に座位時間を数値で測定できるため、座りすぎの研究精度を高めることになりました。また、加速度計を用いることで、1分間に立って動いた時間がどのくらいなのかもわかりますし、30分以上座ったままでいることが1日の中で何回くらいあったのか、長時間連続して座り続けていた時間の合計もわかります。

こういった座りすぎの研究では、「バウト」という用語を使って1回に連続して座っていることを概念としてとらえ、座った状態から一定の時間立って動くことを「ブレイク」と表現します。そして、「バウト」と「ブレイク」を頻繁に繰り返す人の方が健康リスクの低いことがわかってきました。

3) 仕事パフォーマンスと座りすぎ

最近の調査の中で、特に興味深いのが座りすぎと仕事との関係についてです。実は、生産性や活き活きと熱意をもって仕事に臨んでいる状態を示すワーク・エンゲイジメントと、仕事中の座位時間との関連性を調査した結果、大きな関りがあることがわかってきました。この調査は、20歳から59歳の約2,500人を対象として行われ、生産性は仕事の効率に焦点を当てて調査しています。

具体的には、自分が今までに経験した仕事のうち、最高のパフォーマンスを発揮できた仕事と、最低のパフォーマンスだった仕事を思い出してもらい、今週の自分の仕事のパフォーマンスと比較するというものです。

その結果、まず生産性に関しては、40~50歳代の中年層の場合は、座りすぎによる影響についてはあまり顕著な結果は見られなかったようですが、20~30歳代の場合は、座っている時間が短い人に比べて、長い人の場合は仕事のパフォーマンスが低かったと感じることが多く約1.4倍の差となり、特に若い人は約38%の人が仕事のパフォーマンスが低かったと感じ、生産性が悪くなっていることがわかります。

ただ、ワーク・エンゲイジメントについては、逆に20~30歳代には座りすぎとの関連はあまり認められずに、40~50歳代の場合は、仕事中の座位時間が長くなると活き活きと仕事に取り組めなくなり、やりがいや誇りを感じていない人が増えて、座位時間が短い人に比べて約1.5倍も多くなるようです。

この結果からわかることは、仕事がはかどらずに残業する場合は座位時間も長くなってしまうのでしょうが、座位時間が長いからやる気が損なわれて仕事がはかどらないのかもしれません。働く人が、自ら作業効率の低下と座りすぎの関係を意識する必要があるのかもしれませんが、企業の経営者にとっても見過ごすことのできない課題だと思います。

さらに、座りすぎが職務満足感や疾病就業・疾病休業にも関係してくるとなれば、職場に座りすぎを招く要因があるのではと考えることも必要でしょう。
座りすぎは、働く人の健康リスクを招くだけでなく、労働に対するリスクも招いていることになります。

ただ、運動することが健康であることにつながるとわかっていても、座位時間の長さが健康リスクを高めてしまうことはあまり知られていないために、なかなか健康リスクを減らすための対策が行われていないのが現実です。おそらく運動不足を意識している人は多いのでしょうが、座りすぎを意識している人は少ないはずです。運動不足を解消するために余暇に身体を動かそうとする人はいるでしょうが、座りすぎを解消するための努力をする人はあまりいません。まずは、自分が座りすぎの生活を送っていることを認識して、仕事場でも一息つく時に立ち上がって少し動くことが大切です。

座位行動の研究ば15年ほど前に注目され始めた研究であり、まだまだ研究データは少ないとは思いますが、今後多くの研究者が取り組む必要のあるテーマだと痛感しています。

 

 

参考文献:『「座りすぎ」が寿命を縮める』早稲田大学教授 岡 浩一朗 著

第3章 座りすぎが病気の引き金に >

参考文献著者紹介


早稲田大学教授 岡浩一朗氏
早稲田大学スポーツ科学研究科
岡 浩一朗 研究室

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